移情閣友の会

中国の“タカラヅカ”――越劇に恋して。

神戸学院大学 人文学部教授 越劇同好会代表  中山 文  Fumi Nakayama


 神戸学院大学着任11年目に長期海外留学のチャンスをいただきました。1999年のことです。この年はちょうど新中国成立50周年にあたります。首都北京では建国50周年を祝うために中国各地の劇団が上京、毎日選りすぐりの作品が上演されていました。日本では知ることのなかった中国演劇の面白さに魅せられて、私は毎夜の劇場通い。戯曲、話劇とジャンルをこだわらずに片っ端から観劇し、11カ月で253本の作品を見ることができました。もう天国のような毎日!

それまで私は中国の今を知るために、王蒙や王安億など同時代の作家が書く小説を研究対象としていました。でも舞台に生きる俳優たちの肉体は、小説の登場人物よりももっと立体的に、中国と中国人を教えてくれました。どの作品にも、中国の歴史・文化・風俗がすべて凝縮されていました。歌に酔い、物語に感動しながら、「ああ、中国語をやってきてよかったぁ」と、心から思いました。この時の経験が現在の私を作ってくれました。私の一生の財産です。

その中で私は楊小青さんが演出する楊派越劇と出会いました。その舞台の美しさ、描かれる女性のかっこよさ、男性の愛らしさと言ったら! 一目惚れでした。 これまで少しもタカラヅカに魅力を感じなかった私が、女性だけで演じられる中国の演劇にぐんぐん引き込まれて行きました。


 <越劇紹介>
 女子越劇の起源についてご紹介します。
1937年、日中戦争は始まります。そして、上海には租界を中心にモダニズム溢れる都市文化が隆盛します。それ以前の1900年代初頭、浙江省の農村地帯では男性農民による素朴な草芝居が人気を集めていました。彼らはやがて魔都・上海に進出。紆余曲折を経て40年代には、上海で京劇をしのぐ人気劇種へと成長します。その大きな理由は、無骨な男優からたおやかな女優を起用するというスタイルの転換にありました。今、日本で越劇が紹介される際、しばしば「中国のタカラヅカ」と称されます。原則的に女優ばかりの演劇だからです。
当時、俳優は下賎な職業と考えられていましたが、日本留学生たちが持ち帰った話劇(新劇)だけは別格でした。歌わず踊らずセリフだけで行う近代劇は、列強に侵略される母国を救うための愛国的メッセージを民衆に伝える有効な方法として、知識人に流行していたからです。

 40年代の女子越劇は話劇から演出家制度や台本制度を取り入れました。その越劇改革の中心となったのが袁雪芬という女優さんです。彼女の改革は、演劇改革であると同時に、女性解放運動としても重要な意味をもちました。魑魅魍魎の跋扈する上海芸能界で、貧困からのし上がった女優たちが一致団結して男社会に挑んで行ったのです。人間らしく、自立した、社会的に意義ある存在になりたいという高い意識を持って。また、越劇の成長過程には、ターニングポイントごとに賢い男性たちとの出会いがありました。その点も、研究者として興味をそそられます。

<自己紹介>

 1999年に中国の舞台に魅了されて以来、私の研究対象は小説から演劇へとシフトしました。その一環として、演劇交流や現代中国戯曲の翻訳に取り組んできました。
2005年には本務する神戸学院大学グリーンフェスティバルの一環として、越劇を日本に招へいするプロデュースの仕事も経験させていただきました。「中国にはこんなに美しいものがあるのですね」との感想に、それまでの苦労が一度に吹き飛ぶ思いがしました。

 2011年10月、孫文記念館移情閣友の会の中に越劇同好会が発足しました。毎月1度、メンバーが集まって越劇のビデオを鑑賞し、おしゃべりをする楽しい会です。そのうち上海へ越劇観劇ツアーを企画しようと考えています。

 戯曲の翻訳については、幸運なことに、いくつかの作品の舞台上演がかないました。2006年には『カプチーノの味』(作・喩栄軍、演出・岩崎正裕)が神戸と大阪で、2009年には『天国の隣』(作・喩栄軍、演出・ごまのはえ)が神戸で上演されました。自分の言葉が役者さんの肉体を通して発せられると、台本の時とはまったく別の力をもつことに感激しました。「日本人と同じ悩みをもつ中国人が隣にいるようで、親近感をもった」という劇評に、演劇が国際交流に果たす役割の大きさを実感しました。

 これからもさまざまな形で、新しい中国の社会、生活、人々、特に女性にスポットを当て、広く中国演劇を研究し紹介していきたいと思っています。機会がありましたら、ぜひ皆さんもご参加ください。

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Posted by 移情閣友の会 at 2012年02月24日 13:54移情閣だより
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