移情閣友の会

12月17日中国文化同好会例会講演録

「英雄岳飛と中国・日本」―生きている歴史を子孫が語り継ぐ                                         
                                   
                                岳飛第31代子孫 岳 迅飛
 
 中国では、関羽と並び称されているもう一人の「武聖」は、宋代の岳飛である。岳飛(1103−1141)は、殷墟に程近い河南省湯陰県の農家出身で、騎馬民族の金の侵略に抵抗すべく草莽崛起した英雄である。奪われた先祖の墳墓の地を取戻そうと奮戦し、数多くの軍功を挙げながらも、時の権力者に妬まれ、志半ばで散華したこの悲劇の名将に対して、中国人は、日本人が源義経や楠木正成に抱いたのと同じような判官贔屓の心情を持っている。現在、岳飛廟は、中国大陸及び台湾、香港で合計61 社ある。
 筆者は、岳飛の五男、岳霆の末裔で、31代目に当たる。日中国交正常化の年、1972年に生まれ、19歳の時、内モンゴル自治区から来日し、岡山県吉備国際大学を卒業した後、広島大学大学院に進学した。師事した寺地遵教授が岳飛研究者であることを知り、深い縁を感じた。先祖のことについて聞かれた時、1738年内モンゴルに移住した先祖が残してくれた家譜の詩句「百世不易成永継 千年流芳德可風」を紹介し、一門の永遠の誇りだと答えた。
 日本でも明治末期まで、岳飛を「尽忠報国」の英雄として崇拝した時期があり、特に頼山陽、藤田東湖、吉田松陰、橋本左内、西郷隆盛、副島種臣などが、その生き様に心の琴線を触れ、ファンとなった。幸田露伴は「関羽以来唯一人の大丈夫たる」と健筆を振るった。東亜同文会創立者、近衛篤麿も、虐げられた民衆の幸せのために戦った岳飛に共感し、その漢詩を嗜んだ。1918年、箱根で孫文が宮崎滔天に贈った詩「環翠楼中虬髯客 涌金門外岳飛魂」の「岳飛魂」は、アジア民族全体の解放を願う日本の志士たちを喩えた。
 残念ながら現代日本では岳飛の名は広く知られず、近年、中国大河ドラマ『岳飛伝—ラストヒーロー』をチャンネル銀河やBSジャパンで放送したほか、田中芳樹や北方謙三による『岳飛伝』を本屋で見かけるが、三国志の人気に遥かに及ばないのも事実である。
 現在、筆者は、翻訳出版や中国企業向けの研修事業に取り組む傍ら、日中両国の文化的な結びつきを強めたいと日本岳飛文化交流協会を立ち上げた。先祖のお導きか、昨年初め、岳苗字の日本人の方と九州で出会い、親睦を深めている。将来の夢として、東アジアの平和の守護神として、重慶や台湾仏光山に鎮座しているのと同じ岳飛の銅像を日本の中華街に安置するのを目指したい。
 孫文記念館で講演できた機会を賜り、深く感謝申し上げる。 (講師:)


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Posted by 移情閣友の会 at 2018年01月15日 19:28同好会
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